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2015年6月19日 (金)

『みどり書房』             - 森島裕雄句集 -

書棚にみどりの表紙が鮮やかに存在している。
句集『みどり書房』である。

作者は「街俳句会」同人、森島裕雄さん。
「街」今井聖主宰の「序文」から始まり森島さんの俳句、そして「あとがき」へと連なる『みどり書房」は、はらはらどきどきの生粋の営業マン句集。
「みどり書房」の経営、廃業、リホーム会社への就職、次々に遭遇する「本当」の句に興味は尽きない。


005_3 レジにゐて唐黍畠にゐる気分

書店の中を見渡すとカラフルな空間が存在する。この空間は本好きにたまらない。微かに本を捲る音がして、静か。「唐黍畠にゐる気分」は意外性があり過ぎるかも知れないのに惹かれる。書店に行って確かめたくなってしまう。書店のレジへ行ったらきっと店内を見渡すだろう。そして「唐黍畠」に納得させられてしまう。この強引さがいい。

 大くさめ運転席のメモは謎  

メモ書きは大体が謎。仕事中の「運転席」であるから多忙極まりない中でのメモ。この「謎」が効いている。もしかしたら仕事には全く関係無いメモかも知れない。その「謎」が面白い。

 次の四句は書店閉店時の句だろうか。リアルは時として非情。
 

  解体の書棚直立冬木立  

 レジ台に電動鋸の刃入りぬ寒   

 からつぽの棚棚棚や冬の雷   

 六月の有孔ボード空を飛ぶ  

 一般家庭のキッッチンや展覧会や商店の壁のインテリアとして重宝されている「有孔ボード」という壁。
店仕舞いの時の景だろうか。不要になったボードを軽トラの荷台へひょいと投げている作業時の一瞬の景。六月の晴れ間、「有孔ボード空を飛ぶ」の明るさがやるせなく、ほろ苦い。
  

 次の五句も惹かれる句。 

 綺羅星の詰まりし白菜濡れてをり  

 トランクに詰めきれぬ夜やちちろ虫   

 マスクには忘るる力ありにけり   

 赤蜻蛉妻に黙つて買ふ工具   

 飯蛸や立寄るだけの故郷に
 

 『みどり書房』は、作者の家庭人としての顔も時々のぞく。

 梅咲いて住宅ローン完済日
 

十月の花嫁の父直立す 


俳人にはいくつもの顔がある。仕事場の顔、家庭人の顔、俳人の顔、素顔。この句集には作者の真実の顔が詰まっている。
読み終ると自分の顔を振り返ってみたくなる句集。

 

             『みどり書房』 2015年3月「金雀枝舎」発行。

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