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2014年8月17日 (日)

『向日葵の午後』       - 岡本紗矢 第一句集 -

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春隣古墳をノックして帰る          岡本紗矢

古墳に扉は無い。でも作者だったらきっと古墳の入口で「トン、トン」と声を出して扉を叩く振りをして中へ入って行ったに違いない。勿論にこやかに笑いながら・・・。
つまり作者は現代から即、太古の時代へと素直に入って行ける人。

古墳の中の薄暗い空間や手の届きそうな低い天井や入口に見える小さな春の空等の有り触れた場景は必要無い。そんなこと読者はいくらでも想像できる。
「古墳をノックして帰る」という省略された表現が全てを物語る。


「冬の駅」「向日葵」「難民」「立体交差店」は今に生きる作者。
生まれ育った奈良の吉野を時折り振り返り乍ら、「ミイラ」「流氷」「古墳」「蟇」等が嵌め込められて、句集はゆっくりと広がりを見せる。

作者の体内に太古と現代が混在しているのはやはり吉野に生まれ育った血の性なのだろう。これからもずっと「羽根つけて飛ぶ牡丹雪」のように悠久の時を自在に飛び続けるに違いない。


    南朝方の村に棲みつき蟇

    寝て起きてまた佇める冬の駅

    刻限の無きミイラ観ぬ日の短か

    街中を羽根つけて飛ぶ牡丹雪

    四十億年過ぎて我あり流氷と

    黒板が遠き渚に見えて夏

    ぼろぼろの海藻乗るや夏の波

    春の雪照らして夜汽車駅に入る

    一瞬の自死向日葵の午後続く

    綺羅星や難民の地へ飛ぶ毛布

    あめんぼと蝌蚪の立体交差点

    産土の土に撒かれし餅届く

    寒卵扉を開けるまで一人

    千年後の余寒の今日も半跏思惟


紗矢さんは「街」、「門」同人を経て現在「梟」同人。

                              『向日葵の午後』 2014年6月発行


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