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2012年12月20日 (木)

 『夏の谿』 ー 石井薔子句集 ー

石井薔子さんの知性と柔軟で個性的な写生の目の感じられる句集『夏の谿』。

どの句にも必ずはっとするような視点が存在する。
そして時々微かに甘美な世界のあることに気づく。
Img_9028_2

白すぎて夢に未だ見ず朴の花

朴の花には何物にも変えがたい白い存在感がある。
「白すぎて夢にまだ見ず」は現実のこと。
夢の中では絶対に出合わない朴の花。
何故? 「白すぎて」がこの句の全て。
朴の花に甘美な色と形が凝縮されたこの句が好きだ。


春暁の海岸線となる体

上を向いても横を向いても或いは立っていても言われてみれば
体の形は海岸線を思わせる。まるでリアス式海岸のように
入り組んだり出っ張ったりしていて不思議。
「春暁」は目覚めを思わせる。
目覚めの体は海岸線となり物音は波音となり作者に響く。
空想は読者に委ねられ春暁をさ迷う。ふとエロスの世界へ踏み込みたくも
なるが、その一歩手前で踏みとどまるのが薔子俳句。

「海岸線となる体」は羨ましいほど知的で個性的、詩的な把握。
絞って絞って私の一押しの句。

沢山の句の中から特に好きな句を抜粋する。

風が編む鳰を容れたる水面かな

新聞紙の濡れしを破り牡蠣あをし

父の日のあめ色深き籐の椅子

虹消えてのこされし人不完全

旅人のやうに夜勤に出る二日

アカハナノトチノキ日暮れ人攫い

くちびるの形を拾ふ夏の谿

癒ゆるとは水鳥のただ眩しくて



薔子さん、今年は最高にいいお年でしたね。
ご上梓おめでとうご
ざいます。           
                          

                                 (『夏の谿』2012年9月刊行)

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コメント

薔子さま

幼い頃の自分と交差する句にはとても惹かれます。

父の日のあめ色深き籐の椅子
もそうです。「あめ色深き」っていいな。

やっぱり人攫いの話は心底怖かった。同じですね。
でも「アカハナノトチノキ」のカタカナ表記はメルヘンを思わせて、ほっとしました。
現実の「拉致」方が怖いですね~    (hoko)


投稿: | 2012年12月21日 (金) 22時36分

いほこ様
沢山選んで下さり、有難うございます。
「街」の生徒であるので、自句自解はできませんが選んでくださった句、思いがけないのもあって嬉しいです。「アカハナノトチノキ」の句は集に入れようかどうか最後まで迷った句でした。
幼い頃植えつけられた人攫いへの恐怖が、いま、拉致という形で蘇えろうとは。
あ、いけない、自解しちゃった。(笑)
これからもよろしくお願いいたします。

投稿: 薔 | 2012年12月21日 (金) 20時47分

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