« 十薬 | トップページ | 坂の街 シスコ »

2007年7月11日 (水)

蚊帳

― 魔法の硝子 ―
Img_0847 アルコールランプで熱せられた湯はサイフォンの細い管に一気に吸い上げられコーヒーをブツブツ沸騰させる。・・・や否やアルコールランプに蓋をして火を消す。これは毎朝の光景。
そんな時、ふと、サイフォンの硝子に濛々と湯気の上っている大きな釜が映し出される。

サイフォンの泡の向かうの蚊帳工場   いほこ

昔、蚊帳の仕立直しの工場(こうば)を営んでいた伯父がいた。工場には、蚊帳を染め直すための大きな釜があって、家の前には広い庭があり、大人の頭位の高さに、蚊帳を干すためのたくさんの太い針金が張り巡らされれていた。染めた蚊帳が干されている時、ここの庭は緑の迷路と化した。青い水のポタポタ滴っている蚊帳の裾に鬼ごっこの足が見えたことも。
蚊帳を干していない時の
庭は子供たちの天国。ここでビー玉、メンコ、竹馬、かくれんぼを覚えた。
蚊帳工場の軒下には十薬が生い茂り、裏手には茱萸、枇杷、大きな紫朱欒(ムラサキザボン)の木、梅、柿の木ががあって、何時遊びに行っても何かの果物があった。

染め直された麻布はミシンで縫い合わされ、新しい真赤な布で縁取りされ、四つの角の部分に金色の糸で刺繍のような飾りの縫取りをしてゆく。女の人たちの手際の良さ、出来上がった蚊帳の緑と赤の美しさ、匂い、硬い弾力を子供心に覚えている。

緑色に染まった釜の中から濛々と湯気の立ち上っていた工場も、蚊帳の干された緑の庭もとっくの昔に無くなり、今では野菜畑。緑の庭には違いないけれど・・・。


濡れ髪を蚊帳くぐるとき低くする       橋本多佳子
 

サイフォンの丸い硝子は時折、様々のものを映し出してくれる、魔法の硝子。


|

« 十薬 | トップページ | 坂の街 シスコ »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/207145/15591952

この記事へのトラックバック一覧です: 蚊帳:

« 十薬 | トップページ | 坂の街 シスコ »